軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

福音派のイスラエル理解(3)参考文献紹介

※本記事は以下のnote記事からの転載です。

福音派のイスラエル理解(3):参考文献紹介|balien|note

 「福音派イスラエル理解」シリーズの付録です。近年の福音派における「イスラエル論」、その中でも特に「教会-イスラエル理解」について理解するために、「これを読んでおけばいいんじゃないか?」という文献を選んでみました。

 選んだ基準としては、こんなところです。

  1. 著者が有名で、福音主義神学に影響を与えている人。
  2. 邦訳が出ている本。
  3. 日本で出版されたとき、有名なキリスト教系メディアでそれなりに大きく取り上げられた本。
  4. なるべく最近出版された本。
  5. 自分自身が読んだ本(笑)

 ただ、「ディスペンセーション主義編」では1. の条件を満たすことが難しい上に、そもそもディスペンセーション主義の立場から公に出版されている日本語文献はあまりないため、ほとんどピックアップできませんでした。
 それと、今回まとめながら改めて、最近の福音派イスラエル理解にはカール・バルトの影響が大きいと感じたので、「最近の本」ではないですが、バルトの論文をひとつ取り上げてみました。

メインストリーム編

  1. カール・バルトユダヤ人問題とそのキリスト教の応答」雨宮栄一訳『カール・バルト著作集7』(新教出版、1975年)283–9頁
  2. トーマス・F・トーランス『キリストの仲保』芳賀力、岩本龍弘共訳(キリスト新聞社、2011年)
  3. スコット・マクナイト『福音の再発見─なぜ“救われた”人たちが教会を去ってしまうのか』中村佐知訳(キリスト新聞社、2013年)
  4. N・T・ライト『クリスチャンであるとは─N・T・ライトによるキリスト教入門』上沼昌雄訳(あめんどう、2015年)
  5. ミラード・J・エリクソンキリスト教神学』安黒務、伊藤淑美、森谷正志共訳、宇田進監修、全4巻(いのちのことば社、2003–6年)

 『福音主義神学』45号(日本福音主義神学会)に掲載された安黒務「福音主義イスラエル論」は外すべきではない、とお考えの方もおられるかもしれません。しかし扱われているイスラエル論自体は、あくまでラッドやエリクソンイスラエル論を踏襲したものに過ぎません。論文内で紹介されている文献はとても参考になったのですが、このリストからは外してみました。
 また、終末論にかなり集中している本なのでリストから外してしまいましたが、福音派の中で主流的な「教会–イスラエル理解」を知る上では、以下の2冊もいい文献だと思います。

  1. 岡山英雄『小羊の王国─黙示録は終末論について何を語っているのか』(いのちのことば社、2002年)
  2. ジョージ・エルドン・ラッド『終末論』安黒務訳(いのちのことば社、2015年)

 他にも、Stephen Sizerの『Christian Zionism』は福音派の現代イスラエル国家理解を論じる上で外せないのですが、邦訳されていません。また、バルトのイスラエル理解まで触れてしまうと、本当は『教会教義学』の聖書論と教会論抜きに語ってはいけないのかもしれません。そして、福音派イスラエル論への影響ということでは、19世紀の改革派神学者(チャールズ・ホッジとか)のイスラエル理解も無視できません。しかし、現在容易に手に入る日本語文献というと、やはり相応しいものが見当たりませんでした。

ディスペンセーション主義編

  1. アーノルド・フルクテンバウム『ヘブル的キリスト教入門』佐野剛史訳(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、電子書籍、2014年)
  2. 中川健一『エルサレムの平和のために祈れ─続ユダヤ入門─』(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ出版部、1993年)
  3. ハル・リンゼイ『今は亡き大いなる地球─核戦争を熱望する人々の正典』越智道雄訳(徳間書店、1990年)
  4. 高木慶太『近づいている世界の終焉』(いのちのことば社、2002年)

 ディスペンセーション主義イスラエル論については、本当にいい日本語の本がないですね! 3. については個人的にあまり推薦したくはないのですが、「新聞的預言釈義」に陥ってしまった場合の考えや表現を伺い知ることができます(特に3. について)。リンゼイはディスペンセーション主義者でありますので、基本的理解については私も同意しています。しかし、彼らの著作中に見られる新聞的預言釈義への傾倒については同意できませんし、むしろ危険な傾向だと考えています。
 他には、エリクソンの『キリスト教神学』(特に第4巻)やラッドの『終末論』でもディスペンセーション主義が紹介されていますので、そこで基本的情報を得ることはできます。ただし、誤解に基づいた議論が展開されている箇所もあるので、注意が必要です。そのような傾向は、特にラッドの『終末論』において顕著に見られます。
 英語文献でもよければ、以下の文献がディスペンセーション主義イスラエル論の学びには最適です。

  1. Arnold G. Fruchtenbaum, Israelology: The Missing Link in Systematic Theology (Tustin, CA: Ariel Ministries, 1993)
  2. Fruchtenbaum, The Footsteps of the Messiah: A Study of the Sequence of Prophetic Events, Revised ed. (Tustin, CA: Ariel Ministries, 2002)
  3. Charles C. Ryrie, Dispensationalism (Chicago: Moody Publishers, 1995)
  4. Renald E. Showers The Really is a Difference: A Comparison of Covenant and Dispensational Theology (Bellmawr, NJ: Friends of Israel Gospel Ministry, 1990)

 現状では、結局のところ、ハーベスト・タイム・ミニストリーズの「メッセージ・ステーション」で閲覧できるフルクテンバウム・セミナーのテキストが最も簡単に情報を得られる日本語文献だということになるのかもしれません。

 「メインストリーム編」「ディスペンセーション主義編」共に、他にもおすすめの文献がありましたら、ぜひご教授ください。