軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

イスラエル聖書大学の講師らによる著書が発売されました

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"Reading Moses - Seeing Jesus" (Book)

本ブログでは以前「イスラエルにとって本当に必要なもの」と題して、ONE FOR ISRAELメディア宣教部門ディレクターであるエイタン・バール(Eitan Bar)氏の記事をご紹介しました。ONE FOR ISRAELはイスラエルに拠点を置くメシアニック・ジューたちによる宣教団体であり、YouTubeなどを利用したネットメディア伝道、またイスラエル国内の次世代リーダーを養成していくための神学教育(イスラエル聖書大学 Israel College of the Bible)に力を注いでいます*1

そのバール氏、ONE FOR ISRAEL/イスラエル聖書大学の代表であるエレズ・ソレフ氏、そしてイスラエル聖書大学の講師であるセツ・ポステル氏による著書が日本のAmazonでも購入できるようになりましたので、今回の記事はそのご紹介になります。

Reading Moses, Seeing Jesus: How the Torah fulfills its goal in Yeshua (English Edition)

Reading Moses, Seeing Jesus: How the Torah fulfills its goal in Yeshua (English Edition)

本書 Reading Moses, Seeing Jesus*2モーセを読み、イエスと出会う)は、著者らが2015年に出版したKindle電子書籍 The Torah's Goal?*3の増補改訂版になります。

第1版は約2年前のリリース直後に入手して読んだのですが、「モーセの律法についてどう考えるか?」ということをテーマにした非常に良い本で、いつか書評を書きたいと思っていました。そんなことを考えてたらこの改訂版の紙版が日本のAmazonでも入手できるようになりましたので、早速手に入れてみました。これからじっくり読んで、何かしらの形でアウトプットしてみたいと思います。

第1版 The Torah's Goal? では、主に「トーラー(モーセ五書)が書かれた目的は、律法を守れないイスラエルの民の物語(narrative)を通して、読者を『終わりの日』に来るメシアへの待望に導くことである」ということが主張されていました。

メシアニック・ジュー界隈では、ユダヤ人にとってモーセの律法が有効か否かということが議論され続けています*4。その中でもThe Torah's Goal?では、明確に「律法はイェシュア(イエス)を指し示すものであり、イェシュアにおいて成就した;今日ではモーセの律法の遵守は求められていない」ということが主張されていました*5

この姿勢は改訂版である Reading Moses, Seeing Jesus においても崩されていません。むしろその主張を補強するべく、数章が加筆されています。ぱっと目を通した印象だと、随分内容が増えた感じがします。初版をお読みになった方は、以下に本論の章数と各章のタイトルを引用しただけでもその感覚をお分かりいただけるのではないでしょうか。

  1. The Torah Anticipates Lawbreaking
  2. Failure of Faith Leads to Death
  3. The Torah's Remedy: The Messiah
  4. The Creation Mandate
  5. The Adam-Israel Connection
  6. Poem One: God's Response to the Fall
  7. Poem Two: Jacob Blesses His Sons
  8. Poem Three: Balaam's Oracles
  9. Functions of the Law
  10. God's Compromised Ideals
  11. Moses' Law Today?
  12. Messianic Jewish Identity

ちなみに、今のところ最も興味深いのは第4章の「創造における命令」と第5章の「アダムとイスラエルの関係」です。これはポステル氏の担当部分ではないかと思います。ポステル氏はゴールデンゲート・バプテスト神学校で、故ジョン・セイルハマー(John Sailhamer)の指導によりPh.Dを取得しています。セイルハマーは特にモーセ五書を専門としていた旧約学者ですが、彼はやはり創世記3章のアダムの物語を、イスラエルの物語の原型としてみなしています*6。また、ポステル氏の単著はまさにこのテーマを扱ったものです。その著書 Adam as Israel*7もいつか読みたい本なのですが、その主張の一端を知ることができるのではないかと楽しみなのです。

wipfandstock.com

こう書いてみると、いかにも神学的に分厚そうな本のように思われるかもしれませんが、あくまで本書 Reading Moses, Seeing Jesus は「学者ではない読者のために書かれた」もので、「トーラーに関する問題について簡単で分かりやすい答えを提示すること」を目的としています*8。論より証拠で、本論部分はなななんと約110ページしかありません。

また、お金の話になっちゃいますが、日本版Amazonではペーパーバックで約1,500円ですが、Kindle版ではなんと443円です!(2018年2月15日現在。)ななななんというお得感!笑 Kindleなら読みながら辞書引くのがとても簡単ですし、ぜひぜひ広く読まれてほしい本であります。

さて、まだ精読できていないが故にぱっととりとめのない紹介となってしまいました。お茶を濁すようですが、最後に、書籍内に掲載されている(また、ONE FOR ISRAELでの本書紹介記事にも掲載されている)推薦文をご紹介します。

モーセの律法と信者の関係については大変な混乱がある。そんな中で、Reading Moses, Seeing Jesusは明快な答えを、熱っぽくなく冷静に提示している。イェシュアを信じる者すべてのため、とりわけメシアニック・ジューのため、なんと有益な本なのだろう。著者であるポステル、バール、ソレフの視点からは、今も続くトーラーの役割はモーセが書いたお方を指し示すことであるとされており、トーラーへの高い敬意が表されている。もし読者がトーラーの重要性とメシアを信じる者との関係を理解したければ、この優れた本を読むといい。そして、本書を読む間は聖書を側に置き、ノートを取りながら説明を受け、変えられよう。」マイケル・ライデルニック*9

 

「ほとんどのクリスチャンは『聖書はすべて神の霊感によるもので』主イエス・キリストの弟子にとって『有益です』という、使徒パウロからテモテへの言葉を信じている。しかし、ディボーションの中で正確に旧約聖書を学んでいるクリスチャンはどれくらいいるだろうか? あるいは、旧約聖書新約聖書の違い──そして、両者の関係──を理解していると思っているクリスチャンは、どれくらいいるだろうか? 聖書の『全体』、モーセの律法の本質的な目的、メシア預言の力、そして効果的で実りあるユダヤ人伝道および弟子訓練を行うにはどうしたらいいか──こういった事柄を理解したいと思う全ての人にとって、Reading Moses, Seeing Jesus はすばらしい教材である。私はこの本を心から愛している。これは牧師にもクリスチャン一般にも一押しの本だ!」ジョエル・C・ローゼンバーグ*10

 

「私たちは伝統的ユダヤ人から、『トーラーのある我々にはイェシュアは必要ない』と聞かされることが多い。しかし、イェシュアは当時のユダヤ人指導者たちに、彼らがモーセを本当に信じているなら自分をも信じるはずだと教えられた。これはどういうことだろうか? この刺激的な新刊の著者たちは、確かな学術的調査を土台に、謙遜さと明快さを持ってイェシュアが教えられたことの意味を説明してくれている。さらに、トーラーの究極の目的はイェシュアを指し示すことであるということを実証してくれている。読み進めていく毎に、あなたは目が開かれていくことだろう。」ミカエル・L・ブラウン*11

 

「メシアニック・ジューの間における(また今日では、多くの異邦人信者の間でも)最も紛らわしい問題は、信者の生活におけるトーラーの役割についてである。メシアニック・ジューの運動の中では『トーラーの遵守』を訴える者が多くいるが、彼らは神がモーセを通してお命じになったことを読み違えてしまっている。そして、彼らはトーラーを守ることを主張しておきながら、実際にはトーラーに含まれている律法を破っているのである。結局のところ、彼らはトーラーを説きながら、恵みを味わっているのだ。Reading Moses, Seeing Jesus の出版は、この議論に対して歓迎すべき貢献を果たしている。本書はこのテーマについて、全ての問題を確かな聖書的視点から明らかにしている。そして、トーラーの役割と目的について聖書的バランスを持つことができるよう、多くの信者を助けてくれるものである。」アーノルド・フルクテンバウム*12

 

「イエスが来られ、多くのユダヤ人と異邦人が彼を約束の成就だと主張し始めて以降、律法とメシアにおける信者については議論が交わされ続けてきた。この小さく見事な本は、トーラーが律法に関する書ではなく、約束への期待とメシアの必要性に関する書であることを示している。トーラーが約束していることは、究極的には人の内側における神の御業を指し示している。本書の中では確かな説明によって、このメッセージがはっきりと、そして高らかに響き渡っている。」ダレル・L・ボック*13

 

「クリスチャンたちは数世紀に渡って、キリストが来られた今の時代における律法の役割について議論を重ねてきた。この楽しく分かりやすい本の著者たちは、旧約聖書自体が律法に人を救う力はないと教えているということを示している。確かに、旧約聖書を正しく読めば、罪を赦してくださるお方であるメシアへと導かれる。よって、クリスチャンは根本的に律法ではなくイエスの方を向いているべきなのである。今私たちは、示唆に富んでおり、役に立つ旧約聖書の聖書的─神学的解釈を手にしている。本書の読者は聖書全体の驚くべき一体性を知ることになる。私は、このイエスにあるユダヤ人信者による貢献を、暖かく歓迎したい。」トーマス・R・シュライナー*14

 

「釈義的に揺るぎなく、神学的に信頼でき、今の時代に適ったものであり、非常に読みやすい──これらの言葉が本当であることは、実際に本書を読むことによって証明されるだろう。とりわけ称賛に値するのは──そして、これが本書の確かさを保証しているのであるが──、本書の著者たちがイスラエル人の学者たちであり、ナザレのイエスは救い主であるというメシアニック信仰を持っているという事実である。これは必読書だ!」ユージーン・H・メリル*15

 

Reading Moses, Seeing Jesus は、イエス(イェシュア)にあるユダヤ人信者になるとはどういうことかを、ユダヤ人にも異邦人にも理解させてくれる本だ。著者であるセツ・ポステル、エイタン・バール、エレズ・ソレフらは、イェシュアを信じるということはユダヤ人であることをやめることではなく、またイスラエルの偉大な伝統を捨て去るわけでもないということを、聖書から論証している。むしろイェシュアを信じるということは、昔エレミヤが預言した新しい契約の祝福に入ることを意味している。神はメシアであるイェシュアの生涯、死、復活において、御民イスラエルに対する預言を成就された。Reading Moses, Seeing Jesus は、神は選ばれた民を拒絶してしまわれたのではなく、彼らを愛し続け、交わりに招こうとしておられるということを、強く明確に示しているのである。」クレイグ・A・エヴァンス*16

 

「ONE FOR ISRAELとイスラエル聖書大学の働きについて、主に感謝している。彼らの本 Reading Moses, Seeing Jesus は、トーラーを文学的また神学的に理解するための、豊かで役に立つ教材である。本書では、神の意図によって、モーセはイェシュアについて語っていたのであるということが論証されている(ヨハ5:46)。」L・マイケル・モラレス*17

 

「聖書を教え学んでいる者として、私は本書の中に、聖書全体の道筋を明らかにする新鮮な洞察を見出した。一押しだ!」ジョージ・H・ガスリー*18

*1:ONE FOR ISRAELの紹介ページ参照。

*2:Seth D. Postel, Eitan Bar, and Erez Soref, Reading Moses, Seeing Jesus: How the Torah Fulfills Its Goal in Yeshua (ONE FOR ISRAEL, 2017).

*3:Postel, Bar and Soref, The Torah's Goal? (One For Israel, 2015).

*4:このテーマを扱ったメシアニック・ジューによる主張については、たとえば以下を参照のこと。アーノルド・フルクテンバウム『ヘブル的キリスト教入門─メシアニック・ジューの歴史、神学、哲学から学ぶ─』佐野剛史訳(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ出版部、2016年);David Rudolph and Joel Willitts, eds., Introduction to Messianic Judaism: Its Ecclesial Context and Biblical Foundations (Grand Rapids, MI: Zondervan, 2013). また、D. Thomas Lancasterは異邦人信者ではあるが、「トーラーの遵守」を主張するメシアニック・ジューへの同調を示しており、その主張を擁護する著作を記している(Restoration: Returning the Torah of Moses to the Disciples of Jesus, 4th ed. [Marshfield, MO: First Fruits of Zion, 2015])。

*5:Ibid., Kindle locations 1029–1053.

*6:John H. Sailhamer, The Pentateuch as Narrative: A Biblical-Theological Commentary (Grand Rapids, MI: Zondervan, 1992; Id., The Meaning of the Pentateuch: Revelation, Composition, and Interpretation (Downers Grove, IL: InterVarsity Press, 2009). なお、Sailhamerは2017年1月9日に召天された。

*7:Postel, Adam as Israel: Genesis 1–3 as the Introduction to the Torah and Tanakh (Eugene, OR: Pickwick, 2011). なお、Peter Ennsによる書評を以下で読むことができる。Peter Enns, "A Brief Note on a Recent Book about the Adam of Genesis," Patheos; accessed Feb. 15, 2018.

*8:Postel, Bar and Soref, Reading Moses, Seeing Jesus, 9.

*9:Michael Rydelnik is Professor of Jewish Studies and Bible, Moody Bible Institutel; Syndicated Radio Host and Teacher, Open Line with Dr. Michael Rydelnik; author of The Messianic Hope and co-editor and contributor, The Moody Bible Commentary.

*10:Joel C. Rosenberg is New York Times best-selling author, Bible teacher and founder of The Joshua Fund.

*11:Michael L. Brown is President, FIRE School of Ministry, author of Answering Jewish Objections to Jesus (5 vols.).

*12:Arnold Fruchtenbaum is Founder and Director, Ariel Ministries.

*13:Darrell L. Bock is Executive Director for Cultural Engagement, Howard G. Hendricks Center for Christian Leadership and Cultural Engagement; Senior Research Professor of New Testament Studies, Dallas Theological Seminary.

*14:Thomas R. Schreiner is James R. Buchanan Harrison Professor of New Testament, The Southern Baptist Theological Seminary.

*15:Eugene H. Merrill is Distinguished Professor of Old Testament Studies (Emeritus), Dallas Theological Seminary.

*16:Craig A. Evans is John Bisangno Distinguished Professor of Christian Origins, Houston Baptist University.

*17:L. Michael Morales is Professor of Biblical Studies, Greenville Presbyterian Theological Seminary, Taylors, SC.

*18:George H. Guthrie is Professor of New Testament, Regent College, Vancouver, BC.