去年から所属教会で聖書教理の学びをさせていただいておりまして、準備のため空き時間を見つけては教理関係のテキストを読み直しています。組織神学を全体的に学び直すのは随分久しぶりだったので、各分野に取り組む度に新鮮な驚きと喜びがあって、すごく楽しんでます。
そこで今回は、福音派の立場から出版されている聖書教理のテキストについて、おすすめのものをご紹介しましょう。かなり限られたリストではありますが、間違いなくおすすめできるものばかりです。
聖書教理とは?(&組織神学について)
教理について
そもそも「教理って何だ」って話ですが、教理(doctrine)というのは、キリスト教神学での理論に該当する用語です*1。「聖書教理」という表現は、それが聖書から読み取ることのできる理論だということを強調しているのですね。
組織神学について
こういった聖書教理を体系的に(系統立てて)まとめていく営みを組織神学(systematic theology)といいます。ですので、聖書教理について包括的にまとめているテキストというのは、組織神学のテキストであるということもできます。今回ご紹介する聖書教理のテキストの中にも、タイトルに組織神学という用語が入っているものが多いです。
聖書教理の学び(≒組織神学の学び)というのは、結局のところ聖書が何を教えているかということの学びです。クリスチャンにとってはとても大切な学びだと私は信じています。ということで、ウェイン・グルーデムは自身の組織神学書(あとでご紹介します)の中で、組織神学を次のように定義していますね。
組織神学とは、あらゆるトピックに関して、「聖書全体は今日の私たちに何を教えているのか」という問いに答えていく学びである。*2
ちなみに、一般的に組織神学は以下の分野から構成されています*3。
序説(Prolegomena)
これは組織神学の「分野」というべきか微妙ですが、神学とは何か、神学の方法論はどうあるべきかなどを論じるセクションです。アリスター・マクグラスの言葉を借りれば「神学はどこから始まるべきかという問いについての議論」です*4。要するに、組織神学のイントロダクションですね。
「組織神学」を謳っているテキストでは、大体このセクションが入っています。個人的には、科学哲学や科学の方法論が好きなので、このプロレゴメナは大好きなセクションです。また、その人の組織神学の方向性を決めるセクションでもありますので、優れた組織神学書は大体プロレゴメナも優れていると思います。
聖書論(Bibliology)
これは聖書の霊感、権威、正典に関する分野です。
ちなみに、組織神学の一次資料は当然聖書なのでこの分野が一番上に来ることが多いのですが、たまに下の神論を先に置く人もいます*5。
神論(Theology Proper)
これは神ご自身に関する分野ですね。三位一体の教理もここに含まれます。(神学自体が神に関する学問なので「theology」ですが、この分野は特に神のご性質などに重点を置くので、「theology proper」と表記します。)
キリスト論(Christology)
イエス・キリストの性質やわざに関する分野です。
聖霊論(Pneumatology)
聖霊なる神の性質やわざに関する分野です。英語の「Pneumatology」は、霊を意味するギリシア語のpneumaから来ています。
天使論(Angelology)
天使に関する分野で、通常はサタンや堕落した天使(悪霊)に関する教理も含まれます。ただし、サタン論(Satanology)と悪霊論(Demonology)として単独で扱う人もいます*6。
ちなみに、リストの引用元では天使論が「救済論」と「教会論」の間に置かれていますが、個人的には神ご自身に関する一連の分野の真下に置く方がすっきりするので*7、この位置に置き換えました。
人間論(Anthropology)
人間に関する分野です。英語の「Anthropology」は、ギリシア語で「人間」を意味するanthrōposから来ています。
罪論(Hamartiology)
罪に関する分野です。「Hamartiology」もやっぱりギリシア語で「罪」を意味するhamartiaから来ています。
救済論(Soteriology)
救いに関する分野です。「Soteriology」はギリシア語で「救い」を意味するsōtēriaから来ています。
教会論(Ecclesiology)
教会に関する分野です。「Ecclesiology」はギリシア語で「集会」とか「教会」を意味するekklēsiaから来ています。
終末論(Eschatology)
「終わり」に関する事柄、特に終末時代を扱う分野ですが、信者と不信者それぞれの将来、地獄の問題などに関する教理も含まれます。「Eschatology」はギリシア語で「終わりの事柄」を意味するeschatonから来ています。
この他に特殊な事例となりますが、アーノルド・フルクテンバウムは、救済論と教会論の間に「イスラエル論」(Israelology)を置くことを提唱しています*8。
聖書教理を学ぶと、意識するとしないとに関わらず、こういった分野について、聖書から学んでいくことになります。どの分野もすごく大切です。こういった分野を系統立てて学んでいけるのは、すごくエキサイティングですよ!
それでは、聖書教理について全体的に学ぶことができる、おすすめのテキストをご紹介していきましょう。
聖書教理に関するおすすめ本
特におすすめ!
Bruce A. Ware. Big Truths for Young Hearts: Teaching and Learning the Greatness of God. Wheaton, IL: Crossway, 2009.
いきなり洋書ですみません。米国サザンバプテスト神学校教授であるブルース・ウェアによる著作なのですが、これがユニークなことに、子ども向けに書かれた組織神学書なんです! 出版社は「6〜14歳向け」と謳っています。土台になったのは、著者の二人の娘さんが幼い時、寝る前の時間にお話してあげていた内容なのだそうです。(ベッドタイムに一流の学者から組織神学を仕込まれるとは、なんともすごい話だ…)
これを筆頭に挙げたのは、子ども向けということもあってすごく分かりやすいからなんです。書き振りもすっきりしていて、例話も多く、小難しい議論もない。しかも、神論が専門の著者らしく、神ご自身に関するセクションがすごく充実しています。これを小中学生だけに限定するのはもったいない! 高校生大学生、大人にも良い本だと思っています。実際、教会での学びでは、大人に交じって中高生も聞いてくれているので、このテキストを大いに参考にしています。
補足情報になりますが、著者は漸進的ディスペンセーショナリストですので、終末論のセクションではイスラエルの将来についても触れられています。
J・I・パッカー『聖書教理がわかる94章──キリスト教神学入門』篠原明訳(いのちのことば社、2012年)。
いわずと知れた英国国教会内カルヴァン主義に属する神学者、J・I・パッカーの著作です。日本語で聖書教理がまとめられていて、かつ簡潔な1冊ものといいますと、これが一番おすすめでしょうか。教会での学びを準備する中では、これからご紹介していくボリューミーなものだけでなく、本書やウェアの著作のような簡潔なものがとても役に立ちます。とにかくエッセンスを伝えていくにあたっては、訳者の篠原氏が「あとがき」でいっているように「最適な道しるべ」です。
ミラード・J・エリクソン『キリスト教神学』全4巻、宇田進監修、安黒務・伊藤淑美・森谷正志共訳(いのちのことば社、2003–2006年)。
米国ウェスタン神学校の特別教授であるミラード・エリクソンによる著作です。福音派の組織神学書で、日本語で読むことのできるものというとこれを外すことはできないと思います。英語圏でも、あとでご紹介するグルーデムの組織神学と合わせて、評価が高いです。
組織神学について勉強する時は、必ずチェックしています。特にグルーデムのものと比べると、聖書釈義の過程も割と丁寧に記述されているのがいいです(グルーデムが釈義していないというわけではないですが)。組織神学書って「根拠はここです」って感じで聖書箇所ポンと出されておしまい、ってことが結構あるんですが、エリクソンのはすごく丁寧なセクションが多いです。特に救済論のセクションはそれが強いんじゃないでしょうか。聖書教理の学びなのだからまず聖書研究から始めなさい! という姿勢は、エリクソンに補強してもらったように感じています。
なお、終末論については千年期前再臨説&患難期後携挙説(歴史的千年期前再臨説)に立っています。
ちなみに、第1巻、2巻については2010年に合本されておりまして、実質3巻ものとなっています。私が持っている1、2巻も合冊版です。
次におすすめ
ハロルド・リンゼル=チャールズ・ウッドブリッジ『聖書教理ガイドブック』新版、山口昇訳(いのちのことば社、1992年)。
一冊ものの教理テキストということでパッカーの『聖書教理がわかる94章』と比べて迷ったのですが、こちらも大変おすすめです。確か洗礼式の後で、ある兄弟からプレゼントにいただきました。そういう意味でも思い出深い1冊なのですが、内容もすごく分かりやすく、最初は教会での学び会もこれをメインテキストにしようかと考えていたくらいでした。
終末論は歴史的千年期前再臨説ですが、携挙論を巡ってはあまり結論を強調してはいませんので、ディスペンセーショナリストでもあまり違和感なく読めます。
Wayne Grudem. Systematic Theology: An Introduction to Biblical Doctrine. Revised edition. Grand Rapids: Zondervan, 2000.
何度か触れてきました、フェニックス神学校教授のウェイン・グルーデムによる組織神学です。エリクソンのほうが釈義的なところが丁寧〜と言いましたが、正直甲乙つけ難いです。これも、必ずチェックする一冊です。特に神論、聖霊論、教会論を学ぶ時にすごく役に立ちました。教会論はエリクソンよりも良い…かな? いや、やっぱり甲乙つけ難いですが。
アメリカのレビューなんか見てみると、グルーデムの方が体系的によくまとまっているという評価がちらほら見受けられますね。私はそこまでまだ分かりませんが……。なお、終末論もエリクソンと同様、歴史的千年期前再臨説です。
Louis Berkhof. Systematic Theology. Reprint. Edinburgh: The Banner of Truth Trust, 1958.
神論の強い組織神学といえば、ベルコフの古典的名著である本書も外せないでしょうね。改革派からの組織神学になります。
いかんせん古いということで最初敬遠していたのですが、読んでみると意外と文章も分かりやすく、結構集中して読めました。使う用語を定義していきながら話が進められていることが多いのも、分かりやすさの一因かもしれません。
いわゆる契約神学の伝統に立ち、終末論は無千年王国説です。ただ、神論や救済論のセクションからはとても多くのことを学ばせてもらいました。古典といわれているだけあり、今さらながら素晴らしいです。
John MacArthur and Richard Mayhue, eds. Biblical Doctrine: A Systematic Summary of Bible Truth. Wheaton, IL: Crossway, 2017.
米国マスターズ神学校の教授陣による組織神学書です。ディスペンセーショナリズム、かつ5ポイント(TULIP)を支持するカルヴァン主義の視点から書かれているのが特徴といえるでしょうか。特にディスペンセーショナリストによる組織神学としては最新、かつ一番オススメできる一冊です。
正直、内容はエリクソンやグルーデムの方が詳しいです。でも逆に言えば、突っ込みすぎていない分、分かりやすくまとまっていてページ数(索引まで込で1023頁!)の割に読みやすくなっています。表やチャートが多かったり、最後に基本用語集がついているのもありがたいですね。
Lewis Sperry Chafer. Major Bible Themes. Revised edition. Edited by John F. Walvoord. Grand Rapids: Zondervan, 1974.
Charles Caldwell Ryrie. Basic Theology. Revised edition. Chicago: Moody, 1999.
上記2冊は、伝統的ディスペンセーショナリズムの立場から書かれた1巻ものの組織神学です。どちらも救済論は基本的にカルヴァン主義的ですが、限定的贖罪などは支持されていません。
エリクソンを読んでいた頃にルイス・シェーファーのを並行して読んでいました。こちらは『聖書の主要教理』として邦訳もされていて、時折古本が出てますね。次にチャールズ・ライリーのを読みましたが、どちらかといえばライリーのほうが詳しいし分かりやすいのでオススメです。ライリーのは、じっくり学んだことのある思い出深い1冊です。
A・E・マクグラス『キリスト教神学入門』神代真砂実訳(教文館、2012年)。
最後のこれは、聖書教理の学びというところからは外れてしまうかもしれません。でも素人目からすると、基本教理の学びを終えた後、神学を学び続けるなら隣に置いておきたい一冊になるのではないかと思います。
本書は、キリスト教神学全体の「手引き」といえる入門書です。教会史の全体的な流れが解説された後、組織神学の各テーマについて、教理の発展と比較が論じられていきます。実際には、佐藤優がいうように「マクグラス自身が所属しているイギリス国教会(聖公会)の立場がもっとも正しいと思う方向に誘導される構成になっている」のですが*9、それでも主要教理が包括的に扱われていることには変わりありません。中でも特に深められているのは、著者マクグラスが得意とする神学の方法論、それからキリスト教神学の真髄というべきキリスト論ですかね。
他にも、一麦出版社の「改革派教義学」シリーズにはすごく興味があります。また、同様に改革派に立つ故ロバート・レイモンドの組織神学*10も、特にプロレゴメナ(序論)や神論について評判が良いので、気になっています。
カルヴァンの『キリスト教要綱』は、お恥ずかしながら時々かじるだけで、まだ読破できておらず……。いつかチャレンジしてみたいと思ってます。
ただ、今の目的は組織神学の体系を研究することでもありませんので、とりあえず手元にある本で満足しているところです。そして、福音主義の立場から聖書教理の基本的な学びをされるのであれば、今回ご紹介した本はどれも心からおすすめできます!
*1:A・E・マクグラス『神の科学──科学的神学入門』稲垣久和・岩田三枝子・小野寺一清共訳(教文館、2005年)223–24頁。他に教義(dogma)という言葉もあります。強調点の違いとか、そもそも教理と一般科学における理論の違いといったポイントもありますが、詳しくはマクグラスの本を見てください。
*2:Wayne Grudem, Systematic Theology: An Introduction to Biblical Doctrine, rev ed. (Grand Rapids: Zondervan, 2000), 21.
*3:分野のリストとその説明は以下に基づいています。John MacArthur and Richard Mayhue, eds., Biblical Doctrine: A Systematic Summary of Bible Truth (Wheaton, IL: Crossway, 2017), 37. その他の参照:ミラード・J・エリクソン『キリスト教神学』第1巻、安黒務訳、宇田進監修(いのちのことば社、2003年)18–19頁; 中川健一『ディスペンセーショナリズムQ&A』(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、2019年)4–6頁。
*4:マクグラス『キリスト教神学入門』神代真砂実訳(教文館、2002年)209頁。
*5:たとえば、Charles Caldwell Ryrie, Basic Theology, rev. ed. (Chicago: Moody, 1999).
*6:Arnold G. Fruchtenbaum, Israelology: The Missing Link in Systematic Theology, rev. ed. (Tustin, CA: Ariel Ministries, 1992), 10.
*7:特に罪論については、サタンに関する教理が関わってきますので。
*8:Fruchtenbaum, Israelology, 10. イスラエル論が教会論に先行するのは、イスラエルと教会の「両者ともに神の民であるが、歴史的にイスラエルが教会に先行するから」とのことです。
*9:佐藤優『神学の履歴書 初学者のための神学書ガイド』(新教出版社、2014年)188頁。
*10:Robert L. Reymond, A New Systematic Theology of the Christian Fiath (Nashville, TN: Thomas Nelson, 1998).