2023年はディスペンセーション主義者陣営から『ディスペンセーション主義を発見する:1世紀から21世紀にかけてのディスペンセーション主義的見解の発展の追跡*1』(SCS Press)が、非ディスペンセーション主義者からは『ディスペンセーション主義の興亡:終末に対する福音派の論争がいかに国家を形成したか*2』(Eerdmans)や『ディスペンセーション主義以後:世の終わりに向けて聖書を読む*3』(Lexham;以上3冊はいずれも未邦訳)が出版されるなど、ディスペンセーション主義の是非や特にその歴史を巡る議論が盛んでした。
2024年も引き続きそうだった印象です。
2月には『ディスペンセーション主義の興亡』の著者ダニエル・G・ハンメルがThe Gospel Coalition(TGC)にて、「今日のディスペンセーション主義に関する4つのスナップショット」という非常に客観的かつ印象的な記事を発表しました。
4月にはダラス神学校の「The Table Podcast」がハンメルを招いて「ディスペンセーション主義と福音主義」についてディスカッションし、10月には同じくダラス神学校のYouTube番組でクレイグ・ブレイジングとグレン・クレイダーが出演して「ディスペンセーション主義を理解する」という神学的特徴や歴史を扱う回が公開されました。
そして、11月にはSociety for Biblical Literatureのスペシャルイベントとして、『ディスペンセーション主義を発見する』を出版した南カリフォルニア神学校により、同著の寄稿者4名とハンメルを招いての「学術的対談」が行われました。
特にハンメルを交えての対談やディスカッションをいくつか動画やPodcastで確認した限りでは、ディスペンセーション主義を取り巻く厳しい現状をめぐり、双方が落ち着いて客観的な意見を交わしている印象です。
こうした流れが2025年も続いていくことを願いつつ、今回と次回でディスペンセーション主義者側からのブログ記事を拙訳にてご紹介します。
「不本意ながらのディスペンセーション主義者(a reluctant dispensationalist)」であるポール・ヘネブリーが、2024年3月に、ハンメルによるTGCの記事への応答として発表したものです。
2023〜2024年の議論でも、ディスペンセーション主義陣営による意見では、自己擁護の論調が目立った印象です。そうした中でヘネブリーの記事は、貴重な自己批判だと思っています。
ディスペンセーション主義は死につつあるのか?(Pt. 1)
Paul Martin Henebury, “Is Dispensationalism Dying? (Pt. 1),” Dr. Reluctant, March 8, 2024.
最近、ダニエル・ハンメルの著作が注目を集めている。『ディスペンセーション主義の興亡:終末に対する福音派の論争がいかに国家を形成したか』はこの運動に関する穏健な研究であるため、話題を呼んでいる。ハンメルはThe Gospel Coalitionで「今日のディスペンセーション主義に関する4つのスナップショット」という題のエッセイを書いた。彼はそのエッセイで4つのポイントを挙げている。
- ポップ・ディスペンセーション主義[大衆的なディスペンセーション主義]のメディアは、福音派の間で依然として人気がある。
- 学術的なディスペンセーション主義は、ここ数十年で衰退している。
- この2つの傾向が福音主義に与えた影響は様々である。
- ポップ・ディスペンセーション主義は、かつてほど国家政治との関係を持っていない。
私は、ハンメルの指摘はすべて正しいと考えている。ディスペンセーション主義の現状に関する彼の全体的な評価は正しい。多くの要因が関わっているが、そのうちのいくつかについては、以前にも強調したことがある(たとえばここや、ここや、ここで)。私は長年、自分を「不本意ながらのディスペンセーション主義者」と呼んできた。実際には、「聖書的契約主義者(biblical covenantalist)」と呼ばれる方がずっと好みだが。ハンメルの論文は読まれるべきである。以下、ハンメルが指摘した問題はどこにあると私が考えているか、個人的な見解を述べたい。ハンメルはその症状を記述しているが、私は「病気」の特定を試みたい。
それでは、主な問題点を挙げてみよう。
1. 確固たる方法論の欠如
神学的序論(プロレゴメナ)に関する博士論文に取り組んでいたとき、私は、ディスペンセーション主義者たちが十分に練り上げられた方法論を提示していないことに気づいた。ここでライリーの必須条件(sine qua non)について議論すべきである(個人的には、神が結ばれた契約がその必須条件であると信じている)。また、ディスペンセーションが解釈学的に正当化されるか、霊感を受けた著者たちによって神学的に重要視されるか、ディスペンセーション主義が解釈学であると主張することに意味があるのか(意味があるとしたら、それは何を意味するのか)といった疑問もある。繰り返しになるが、ディスペンセーション主義は包括的な組織神学および世界観なのか、それともより質素で初歩的な「体系」なのか。
2. 自己批判の欠如
ディスペンセーション主義者は、自分たちの見解を擁護する文章を書くのは得意だが、自分たちの立場における弱点を掘り下げて調べる努力を怠りがちである。もちろん、これは上記の第1項が原因である。
3. 若手学者のための学術書や出版機会の不足
ダニエル書、エペソ書、黙示録以外の聖書の書物について考えてみてほしい*4。そして、他の聖書の書物について、最も優れた学術的注解書が何であるかを自問してほしい。ディスペンセーション主義者による著作はどこに入っているだろうか?(ルカ─使徒に関するダレル・ボックの著作は認めよう*5)。聖書辞典はどうだろうか? 組織神学は? 聖書神学は? パウロ神学は? そして、ディスペンセーション主義の分野で若い学者が著作を出版する機会はどこにあるのか? 契約神学や新しい新約神学(New Covenant theology)は、ディスペンセーション主義神学よりもこの分野ではるかに優れているように思われる。
4. 新しい契約に関するコンセンサスの欠如
このことについては、過去にもかなり不満を述べたことがある。近刊の自作『契約のことば:新約における連続性』*6では、このことについてかなり詳しく論じている。率直に言って、教会が新しい契約の完全な当事者であることを否定する多くのディスペンセーション主義者が教えていることは、多くの聖書研究者にとって奇妙に映っている。
5. キリスト中心の神学の欠如
私見では、これが大きな問題である。改革派契約神学は、その志向において非常にキリスト論的である。もちろん、彼らの救済史的解釈や、新約を通して旧約を解釈するという方法は、彼らの理解を歪めている。しかし、彼らは読者の関心をキリストに集中させている。これに加えて、キリストが今も統治しているという彼らの見解は、キリスト論的な視点を増大させている。一方、ディスペンセーション主義はそれほどキリスト論中心というわけではない。その理由の一つは、ディスペンセーション主義がディスペンセーションによって構造化されていることにあると思う。ディスペンセーションはキリストを指し示さないが、契約は指し示すのだ!
ディスペンセーション主義を教会論と終末論に限定することは、問題を悪化させると思う。なぜなら、より包括的な全体論的な観点ではなく、その[限られた]観点で考えることを促すからだ。しかし、それについては次回に詳しく述べたい。
※次回↓↓
*1:Cory M. Marsh and James I. Fazio, ed., Discovering Dispensationalism: Tracing the Development of Dispensational Thought from the First to the Twenty-First Century (El Cajon, CA: SCS Press, 2023).
*2:Daniel G. Hummel, The Rise and Fall of Dispensationalism: How the Evangelical Battle over the End Times Shaped a Nation (Grand Rapids: Eerdmans, 2023).
*3:Brian P. Irwin with Tim Perry, After Dispensationalism: Reading the Bible for the End of the Wolrd (Bellingham, WA: Lexham, 2023).
*4:【訳注】ヘネブリーが意識しているのは、主に以下の注解書だと思われる。ダニエル書:Stephen R. Miller, Daniel, NAC (Nashville, TN: B&H, 1994); J. Paul Tanner, Daniel, EEC (Bellingham, WA: Lexham, 2020). エペソ書:Harold W. Hoehner, Ephesians: An Exegetical Commentary (Grand Rapids: Baker, 2002). 黙示録:Robert L. Thomas, Revelation: An Exegetical Commentary, 2 vols. (Chicago: Moody, 1992, 1995); Anthony C. Garland, A Testimony of Jesus Christ: A Commentary of the Book of Revelation, 2 vols. (Camano Island, WA: SpiritAndTruth.org, 2004); Buist M. Fanning, Revelation, ZECNT (Grand Rapids: Zondervan, 2020).
*5:【訳注】たとえば、以下のような著作が念頭に置かれていると思われる。Darrell L. Bock, Luke, BECNT, 2 vols. (Grand Rapids: Baker, 1994, 1996); Acts, BECNT (Grand Rapids: Baker, 2007); A Theology of Luke and Acts, BTNT (Grand Rapids: Zondervan, 2012).
*6:【訳注】ヘネブリーが2024年に出版した著作(未邦訳)。Paul Martin Henebury, The Words of the Covenant: A Biblical Theology, Volume 2: New Testament Continuation (Raleigh, NC: Sojourner Press, 2023).