軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

創世記1:2の動詞ハイェターについて

前回:創世記1:1の「天と地」の意味

これまでは一部を除いて創世記1:1に着目してきましたが、ギャップ・セオリーを検証する際の最重要課題であると言っても過言ではないのが2節の釈義です。

実際に、古典的ギャップ・セオリーを最も詳細に論じているとされているアーサー・カスタンスの著作『Without Form and Void』には「創世記1:2の意味の研究」(A study of the meaning of Genesis 1:2)という副題が付けられています。これから何回かは、ギャップ・セオリー支持者が2節の釈義に基づいて展開している様々な主張を取り上げ、検証していきます。

改めて、創世記1:2の冒頭では「地は茫漠として何もなく」(ウェハアレツ・ハイェター・トーフー・ワ・ボーフー)と言われています*1。古典的/修正ギャップ・セオリーの主張では、まず接続詞ワウ+「地」(ハアレツ)の後に来ている完了態動詞ハイェターの意味が重要になっています。

*1:特に断りがない限り、聖書引用は聖書 新改訳2017 ©2017 新日本聖書刊行会による。

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創世記1:1の「天と地」の意味

前回:創世記1:1〜3の構成

前回は創世記1:1〜3の構成に触れ、創世記1:1は「天と地の創造」という、創造の六日間における最初の出来事を示しているという結論をご紹介しました。

今回は創世記1:1の「天と地」という表現に注目していきましょう。

  • 世界/宇宙全体を示す表現
  • メリスムスにおける構成要素の重要性
  • 「秩序立てられた」という要素の必要性?
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創世記1:1〜3の構成

前回:創造前カオス・ギャップ・セオリー

今回からは、創世記1:1–3を見ていきながら、ギャップ・セオリーを検証していきたいと思います。

創世記1:1–3のヘブル語本文では、各節が次のように始まっています。

  • 1節:時点を示す「はじめに」(ベレーシート)+「創造された」(完了態動詞バーラー)+「神が」(主語エロヒーム)……*1*2
  • 2節:接続詞ワウ+名詞(ワウ+「地」[ハアレツ]、ワウ+「闇」[ホシェク]、ワウ+「神の霊」[ルアハ・エロヒーム])で始まる3つの節
  • 3節:接続詞ワウ+「仰せられた」(未完了態動詞ヨメル)+「神は」(主語エロヒーム)……

これまで見てきたように、これら3節の構成の理解については様々な解釈が提唱されています。まず、1節を最初の「出来事」と理解すべきか(伝統的立場や古典的ギャップ・セオリーなど)、それとも創造の記事の「要約」と理解すべきか(創造前カオス説や要約説など)という議論があります。

次に、2節を1節の「続き」と理解すべきか(古典的ギャップ・セオリー)、1節の「状況説明」と理解すべきか(伝統的立場など)、それとも3節の「状況説明」と理解すべきか(修正ギャップ・セオリーや創造前カオス説など)という議論があります。

  • 1節は「最初の出来事」か「要約」か
  • 2節の役割
  • 1–3節と創造の六日間

*1:特に断りがない限り、聖書引用は聖書 新改訳2017 ©2017 新日本聖書刊行会による。

*2:1:1「はじめに神が天と地を創造された」は、新改訳および共同訳において独立節(independent clause)として訳されています。本節は「神が天と地を創造されたとき……」という従属節(dependent clause)と見なされることもあります(例:W. Gunther Plaut and David E. S. Stein, ed., Torah: A Modern Commentary, rev. ed. [New York: Union for Reform Judaism, 2006], 19)。この見解に対する批判や独立節としての翻訳の論拠については以下をご参照ください。Gordon J. Wenham, Genesis 1–15, WBC (Waco, TX: Word, 1987), 11–12; Bruce K. Waltke, “Creation Account in Genesis 1:1–3: Part Ⅲ: The Initial Chaos Theory and the Precreation Chaos Theory,” Bibliotheca Sacra 132 (July–September 1975): 222–25; Kenneth A. Mathews, Genesis 1:1–11:26, NAC (Nashville, TN: B&H, 1996), 137–39; C. John Collins, Genesis 1–4: A Linguistic, Literary, and Theological Commentary (Phillipsburg, NJ: P&R, 2006), 50–51.

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創造前カオス・ギャップ・セオリー

前回:修正ギャップ・セオリーとソフト・ギャップ・セオリー

今回は次回に引き続き、ギャップ・セオリーのバリエーションをご紹介します。今回取り上げるのは、おそらく創世記1章の解釈で最も支持を得ている見解である「創造前カオス説」と組み合わされたギャップ・セオリーです。

  • 創造前カオス説と組み合わされたギャップ・セオリー
    • メリル・F・アンガーのギャップ・セオリー
    • 創造前カオス説
    • 創造前カオス・ギャップ・セオリー
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修正ギャップ・セオリーとソフト・ギャップ・セオリー

前回:古典的ギャップ・セオリーへの反論

前回までは古典的ギャップ・セオリーの歴史とその見解に対する批判について、大まかに確認してきました。現在、古典的ギャップ・セオリーが主張されることは(少なくとも学術的には)ほとんどありません。しかし多くの批判がありながらも、ギャップ・セオリーそのものは主張され続けています。今回と次回では、何らかの点で古典的ギャップ・セオリーから修正が加えられた形で主張されている場合を見ていきます。

  • 「非地質学的」or「修正」ギャップ・セオリー
  • ソフト・ギャップ・セオリー
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