軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

聖書の物語と契約(8)エレミヤ書と新しい契約の希望(その2)

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前回:エレミヤ書と新しい契約の希望(その1)

 エレミヤ書30–33章は、この預言書の中でも特に希望の約束を重点的に扱っており、「慰めの書」とも呼ばれている。旧約聖書が告げる契約の希望のクライマックスとさえいえる新しい契約は、この慰めの書で最も詳細に啓示されている。

 前回、私たちはイザヤ書の内容をふまえてエレミヤ書30–31章を見た。そこで、新しい契約は主の「しもべ」なるメシアと密接に関係していることを確認した。新しい契約は、メシアがイスラエルのため、また諸国民のために成し遂げる贖いをもたらす枠組みである。

 しかし、それだけではない。新しい契約は、イスラエルの回復をもたらす契約でもある。イスラエルが「回復」を必要とするのは、罪のためである。諸国民が回復を必要とするのも、また被造物全体が回復を必要とするのも、堕落の影響によるものである。新しい契約が罪の赦しをもたらす贖いの契約であるということは、この契約が、被造世界の回復と密接に繋がっていることを示唆している。

 今回はエレミヤ書32–33章を見ていくが、特に33章では、新しい契約と諸契約の関係が明らかにされている。その関係を見ていくことによって、私たちは、新しい契約を通して諸契約が成就し、そして諸契約の成就に基づいてイスラエルも諸国民も含む被造世界全体が回復させられるという希望を見ることになる。

 このエレミヤ書33章は、今や私の様々な神学的確信の土台となっている箇所である。新しい契約を考える上で、31章だけで終わらせることはできない。今回の記事では、それをお分かちできればと考えている。

 なお、次回はエゼキエル書に見られる新しい契約の希望をおおまかにまとめるつもりである。

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聖書の物語と契約(7)エレミヤ書と新しい契約の希望(その1)

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前回:イザヤ書と永遠の契約の希望

 前回は、イザヤの預言のなかにある「永遠の契約」の希望を見た。イザヤはまず、イスラエルの王となり、諸国民の光ともなるダビデの子=メシアが、主の「しもべ」でもあることを伝えた。そして、栄光の王である「しもべ」その人が、自らを、イスラエルと諸国民にとっての「代償のささげ物」としてささげるという。「しもべ」すなわちメシアは、イスラエルと諸国民を完ぺきに統べ治めるだけではなく、彼らの回復の土台となる完全な贖いと罪の赦しをももたらすのである。

 そして、「しもべ」は「民の契約」となると預言されていたとおり、メシアがもたらす罪の赦し(霊的な回復)は、「永遠の契約」において実現する。エレミヤ書は、その契約こそ新しい契約であると明らかにしている。

 このように、新しい契約は、旧約聖書の時点から既にメシアと密接に関係している、重要な契約である。私たちクリスチャンは、ナザレのイエスこそがメシアであると信じている。そして、イエスは既に新しい契約を結ばれた(ルカ22:20)。それでは、イエスが結ばれた新しい契約とは、どのような契約なのか。今回からいよいよ、新しい契約のメインテキストともいえるエレミヤ書30–33章を見ていこう。今回は特に、エレミヤ書30、31章を取り上げたい。

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聖書の物語と契約(6)イザヤ書と永遠の契約の希望

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前回:主の日・契約の成就・被造世界の回復

 私たちはこれまで、ダビデ契約の成就(メシアの到来と王国の確立)こそが、諸契約の成就と被造世界の回復をもたらすことを見てきた。また、成就と回復は、終末的な【主】の日を通して実現するということも見てきた。

 聖書は、契約の成就と被造世界の回復をもたらす、さらなる枠組みを啓示している。それが、あの新しい契約である。この契約は、私たちが今「新約聖書」と呼んでいる正典の後半部分の名称にも使われている。実際に、新約聖書の主要なメッセージの一つは、旧約が預言してきた新しい契約が、イエス・キリストにおいて締結されたのだということである(ルカ22:20; ヘブ9:15など)。

 それでは、私たちの主によってもたらされた新しい契約とは、どのような契約なのか。これを探っていくため、複数回に分けて、イザヤ書エレミヤ書エゼキエル書という三大預言書を覗いていこう。それによって、私たちとも大いに関係している新しい契約について、より立体的な理解が得られると思うのだ。

  • 新しい契約と回復の希望
  • イザヤ書と永遠の契約の希望
    • 第1、第2のしもべの歌
    • 第3、第4のしもべの歌
    • 永遠の契約
    • 新しい天と新しい地
    • まとめ
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興味深い最近の神学書情報

The Moody Handbook of Messianic Prophecy: Studies and Expositions of the Messiah in the Old Testament

Michael Rydelnik and Edwin Blum, eds. The Moody Handbook of Messianic Prophecy: Studies and Expositions of the Messiah in the Old Testament. Chicago: Moody, 2019. Hardcover: 1440 pages.

ムーディ聖書学院の教授陣がメインになって編集/執筆しているMoody Handbookシリーズの最新刊!伝統的にメシア預言とされる旧約テキストへの取り組み方や、各預言の解釈が扱われている。

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聖書の物語と契約(5)主の日・契約の成就・被造世界の回復

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前回:王国の滅亡と契約に基づく希望

 前回、ダビデ契約の成就──メシアの到来と彼の王国の確立──において、それまでの諸契約の成就、そして被造世界の回復がもたらされることを見た。この契約の成就と被造世界の回復と密接に関係しているのが主の日である。預言書で幾度も登場するこの概念は、聖書的契約を考える上で絶対に外すことができない、重要なものとなっている。

 これから新しい契約を理解するためにも、主の日について考えておかなければならない。なぜなら、主の日において(またはその後で)実現する契約の成就と被造世界の回復は、新しい契約を通して実現するからだ。今回、なるべく包括的に主の日について見ていくことで、次回から新しい契約を取り上げるための準備運動としたい。

  • 【主】の日について
  • 【主】の日の特徴
    • A) 神ご自身が特別な形で介入される日
    • B) 神が地上のすべての民に対して裁きを下される日
    • C) イスラエルに契約違反への最終的な裁きが下される日
    • D) イスラエルに敵対する諸国民が裁かれる日
    • E) 裁きには仲介者も用いられる
    • F) 裁きの影響は被造世界全体に及ぶ
    • G) 【主】の日は差し迫っている
    • H) 裁きを通した祝福がある
  • 【主】の日・契約の成就・被造世界の回復
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