軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

聖書の物語と契約(11)近づいた神の国

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シリーズ記事一覧

前回:メシアの誕生と諸契約の成就

 ナザレのイエスの誕生は、諸契約が指し示していたメシアの到来そのものであり、聖書の物語が最終段階へ進むための決定的な出来事だった。

 しかし、福音書の著者たちは、イエスの誕生そのものや幼年期の記録よりも、イエスご自身の教えと行動に注目している。よって、私たちもまた、メシアであるイエスご自身の教え──特に公生涯の初期に語られたと思われる教え──から、イエスの到来がいかに決定的なものであったかを見て行くことにしたい。

  • ヨハネとイエスのメッセージ
  • 天の御国/神の国について
    • 「御国」および「国」について
    • 「御国」とメシアの王国
    • 「天の御国」と「神の国
  • 「近づいた」神の国
  • 悔い改めの呼びかけ
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2019年印象的だった10冊

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2019年も残り十数時間。読者の皆様には大変お世話になりました。

締め括りは、今年読んだ中で印象的だった10冊をご紹介したいと思います。

「聖書の物語と契約」シリーズは、年明けから再開予定です。
そろそろ原稿ストックが尽きそうなので、お休み中にある程度書き溜めておきたいところ。

来年も引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

良いお年を!

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聖書の物語と契約(10)メシアの誕生と諸契約の成就

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前回:エゼキエル書と新しい契約の祝福

 これまでモーセ五書から預言書までをざっと見渡してきた。神はこの被造世界を、本来の「非常に良かった」状態へ回復させてくださる。その計画を明らかにしているのが聖書に見られる物語(ストーリー)であり、その物語は、神が人にお与えになった契約を軸として展開している。神は、ノアを通して全人類と結ばれた契約、またアブラハム、イサク、ヤコブとその子孫たちと結ばれた契約を通して、被造世界の回復を成し遂げられる。

 中でも強調されていたのが、アブラハム、イサク、ヤコブの子孫であるイスラエル民族の将来についてである。神の契約のプログラムにおいて、イスラエルは「祭司の王国」として回復させられ、諸国民に祝福をもたらす器となる。こうして実現するイスラエルと諸国民の回復は、被造世界の回復という視点からすると、神がこの世界を治めるよう創造された「人」の回復であるといえる。

 そして、イスラエルの回復、諸国民の祝福、被造世界の回復をもたらす存在こそが、創世記3:15から「女の子孫」として啓示され、後にはダビデの子孫から来る王として啓示されてきたメシアである。このメシアこそ、神が人として来られる究極的な王であり、万物の回復をもたらす「新しい契約」という枠組みの仲介者となる。今回からは、新約聖書を通して、実際に到来されたメシアであるナザレのイエスに目を向けていこう。

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聖書の物語と契約(9)エゼキエル書と新しい契約の祝福

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前回:エレミヤ書と新しい契約の希望(その2)

 前回、前々回で、私たちはエレミヤ書のいわゆる「慰めの書」(30–33章)から、新しい契約がどのような契約であるか、新しい契約と諸契約の関係はどのようなものであるか、その全体像を大まかに見てきた。

 新しい契約は、この被造世界に「のろい」をもたらした罪の問題の解決──すなわち罪の赦しをもたらす、贖いの契約である。この契約は、自らを「代償のささげ物」にするというメシアの業をもたらす枠組みである。この契約によってイスラエルに対して、また諸国民に対して罪の赦しがもたらされ、創世記以降啓示されてきた諸契約が成就し、そして遂には被造世界の回復が実現させられるのである。

 今回は、本シリーズで旧約聖書を扱う稿の最後として、エゼキエル書に見られる新しい契約の祝福を、やはり大まかではあるが見ていくことにしたい。エゼキエル書は、新しい契約がもたらす祝福について、その霊的側面のみならず、物質的側面までも具体的に明らかにしている。それらの祝福を見ることによって、新しい契約がイスラエルの民族的・国家的回復の希望と固く結びついていることが確証されるだろう。

  • エゼキエル書における契約
  • イスラエルの回復と諸国民の祝福(36章)
  • 干からびた骨の幻と杖のたとえ(37章)
  • 神殿の回復(40–48章)
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