軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

イスラエルにとって本当に必要なもの

知人のFacebookの投稿で、ユダヤ人伝道団体であるONE FOR ISRAELのブログから、以下の記事がシェアされていました。

www.oneforisrael.org

福音派のクリスチャンの中には、イスラエルへの支援やユダヤ人伝道に関心を寄せている者が少なくありません(そして、私もその一人です)。しかし、時折、イスラエル国という国家自体を過大評価したり、ユダヤ人が「選ばれた民」であるという事実を歪曲して捉え、彼らへの伝道の必要性を否定したりする傾向が見られます。(私自身の身近では本当にごく稀に見られるくらいなのですが…)

この記事は、イスラエル国内の現状や、ユダヤ人への伝道の必要性を強く訴えています。これは、クリスチャンの間で広く共有されるべき情報ではないかと思います。

“The Risk of Loving the Jewish People More Than You Love the Jewish Messiah”(ユダヤ人のメシアを愛するよりもユダヤ人を愛することの危険性)というこの記事では、クリスチャンの間で時々見られる「ユダヤ人はイエスを信じる必要はない」という考えに対する強い反論が述べられています。

また、イスラエルが抱える社会的な問題もわずかながら例示されています。

大切なのは、ユダヤ人クリスチャン自身がこういった記事を出しているということです。この記事の著者であるEitan Barについては次のように紹介されています。

Eitai Barは1984年にテル・アビブで生まれ育ったイスラエル在住のユダヤ人。2009年イスラエル聖書大学(エルサレム)卒業(B.A.)。2013年リバティ大学にてM.A.(神学)修得。現在ダラス神学校にて博士課程に取り組んでいる。Eitanは現在ONE FOR ISRAELのメディア&伝道担当ディレクターとして奉仕している。(2006年から2013年まで、イスラエルのVLM-SLMリーダーとしての役割を含め、CRUで勤めていた。)Eitanの専門は「マルチメディアデザインとビジュアル・コミュニケーション」であり、テル・アビブの様々な広告代理店で活躍している。彼は以下のコーナーのプロデューサーである。1) I MET MESSIAH(ユダヤ人信者の証集)、2) Answering Rabbinic Objections to Jesus。

ユダヤ人伝道・イスラエル支援を考える上では、彼のような生粋のイスラエル育ちのメシアニック・ジューがどのような認識を持っているか知ることが重要ではないでしょうか。
Bar氏ご本人より許可をいただきましたので、ここで記事の内容をご紹介したいと思います。

ど素人の拙い訳ですが、大切な情報だと思いますので、ぜひお付き合いください。

なお、脚注は私による補足となっています。

ユダヤ人のメシアを愛するよりもユダヤ人を愛することの危険性

By Eitan Bar

ユダヤ人のメシアを愛する以上に、私たちユダヤ人を愛さないでください! これがどういう意味か、分かりますか?

私はユダヤ人です──つまり、約1億4千人の中の一人です。
また、私はイスラエルテル・アビブ)で生まれました──そうなると、約4百万人の中の一人になります。
それから、私はメシアであるイェシュア(イエス)に従うイスラエルユダヤ人です──こうなると、私はたった約7千人の中の一人なのです。

「残された者」(ロマ11:1–6)の一部になるのは、容易いことではありません。多くの仲間のユダヤ人たち(イェシュアについて、ラビが彼らに教えたことしか知らない人たち)が、私を伝統を裏切り、異教の神に従うことを選んだ者として見なしています。私たちメシアニック・ジューは、イスラエルユダヤ人の間では決してポピュラーな存在ではないのです。

でも一方では、ますます多くのクリスチャンたちが、イスラエルに対する神のご計画について、彼らがCNNやBBCで見たことを土台として考えるようになってきています。つまり、全く好意的ではないのです。私たちは他の国々の教会でも、ますます受けが悪くなってきているのです。だからこう言って差し支えないと思うのですが、英語のことわざであるように、私は悪魔と深い青い海の間に捕らわれている[進退きわまっている]のです。

世界中のクリスチャンの兄弟姉妹たちが私の母国イスラエルに支援と愛を送ってくださっていることに、本当に励まされています。だけどその中で、私は悲しまされてもいます。私の国をとても愛してくれている人々の中には、ユダヤ人はイェシュア(イエス)を通した救いを必要とはしていない、と考えている人がいるのです!イスラエルは素晴らしい国だと思いますが、完全ではありません──私たちは他の人々と同じように、自らの罪によって受ける報いを顧みる必要があります。そうでなければ、私たちは神から永遠に引き離されてしまうことになるのです。

死に向かうイスラエル愛する人

有名な「Christians United for Israel」の会長、John Hagee牧師の教えが良い例でしょう。その教えの中でHagee牧師は、ユダヤ人はイエスとの個人的関係を必要としておらず、古い契約を守ることによって救われるのだという誤った考えを提唱しています。悲しいことに、彼は次のように言っています。

モーセの律法は、神がより優れた啓示をお与えになるまで、神に関する知識へと人を導くのに十分である。……仏教徒であれバハーイ教徒であれ、人はみなイエスを信じる必要がある。しかし、ユダヤ人についてはそうではない。」[1]

[1]:Pastor John Hagee, Houston Chronicle

驚きましたか?私は衝撃的でした。

Hagee牧師は、神が私たちの民族と結ばれたアブラハム契約の目的を理解し損ねているようです。彼はこの契約を個人的救いとは何の関係もない民族主義の契約と考えています。また、モーセの律法の目的についても正しく理解できていないようです。私たちが祭司も神殿も、そしていけにえを献げるための制度も持っていないのに、Hagee牧師はどうやってイスラエルモーセの律法を守れると考えているのでしょうか。その全てが、律法の核となる要素なのに(そして、私たちをただキリストへと導くものであるのに)。ご承知の通り、私たちはモーセ契約とモーセの律法を切り離すことはできません。律法は契約からの副産物に過ぎないからです。律法はそれ自体では成立し得ないのです──サンドイッチなしでマヨネーズとマスタードだけ食べるのが、意味のないことであるように。(このことについては、トーラー[モーセ五書]に関する私たちの新著で詳細に説明されています。*1モーセ契約は血が流されたことによって承認され(出24:8)、祭壇の上でいけにえの血が流されることによって守られてきました(出30:10)。いけにえの制度なしでは、私たちはモーセ契約を守ることはできません。聖書はそれだけではなく、律法を守ることができる者や、律法の行いによって義と認められる者は誰もいないと言っています(ガラ2:16)。したがって、律法を通して救いを受け取ることができる人は誰もいないのです。私たちを救い、罪から洗い流してくださるのは、メシアの血だけなのです。

Hagee牧師は彼の著書“In Defense of Israel”の中ではさらに次のように述べています([この本のタイトルとは対照的に]本書の結論は、皮肉なことに、イスラエルを擁護するよりも、イスラエルにとって危険なものになっています)。

Hagee牧師はこう言っています。「イエスの生涯の最高の目的は、異邦人の光となることであった。」(p. 133)
しかし、イエスはこう言われました。「わたしは、イスラエルの家の滅びた羊以外のところには遣わされていません。」(マタ15:24)

Hagee牧師はこう言っています。「イエスがメシアとして来られたと言っている聖句は、新約聖書には1箇所もない。」(p. 136)
しかし、イエスはご自身がメシアであると言われました。「女はイエスに言った。『私は、キリストと呼ばれるメシヤの来られることを知っています。……』イエスは言われた。『あなたと話しているこのわたしがそれです。』」(ヨハ4:25–26)

Hagee牧師はこう言っています。ユダヤ人がイエスをメシアとして拒否したのではない。ユダヤ人のメシアとなることを拒否されたのはイエスである。」(p. 140)
しかし、イエスはこう言われました。「あなたがたに告げます。『祝福あれ。主の御名によって来られる方に。』とあなたがたが言うときまで、あなたがたは今後決してわたしを見ることはありません。」(マタ23:39)*2

Hagee牧師はこう言っています。「イエスはユダヤ人のメシアとなることを拒否され、代わりに世界の救い主となることを選ばれた。」(p. 143)
しかし、聖書は言っています。「だから、イスラエルの全家は、はっきり知らなくてはなりません。あなたがたが十字架につけて殺したイエスを、神は主とし、またメシアとなさったのです。」*3

何が問題なのか、わかりますか?

あなたが知らないイスラエル

あるクリスチャンたちによって提唱されているユダヤ民族がイェシュアをメシアとして拒み続けても構わないという考えに対して、私はイスラエルに住むユダヤ人として、とても悲しく思っています。それは、この考えが異端だからというだけではなく、John Hagee牧師のような人々が知らないイスラエルの側面を、私は知っているからです。

イェシュアは言うまでもなく聖書を堅く信じていましたが、[イスラエルの]領土に関する問題よりは、人々──特に、貧しい人々、老いた人々、未亡人たち、孤児たちなどを大事にすることを強調していました。イェシュアのメッセージは何ら新しいものではありません。ヘブライ語聖書*4イスラエルの国に対して、これらの人々を大事にするよう、何度も何度も教えているのです。

しかし今日では、イスラエルの子どもの3人に1人は貧困により苦しんでいます(イスラエルは、世界で4番目に子どもの貧困が進んでいる国なのです*5)。医療制度は、資金と医療従事者の不足により崩壊しはじめています(経済協力開発機構OECD]が病院に対して最も融資を行っている国はイスラエルです*6)。トランスペアレンシー・インターナショナルによれば、恥ずべきことに、イスラエル汚職は100段階の内60まで進んでいます*7ホロコースト生存者の4人に1人は貧困により苦しんでいます*8。食料や必要な医薬品が不足しているホロコースト生存者の方々に、私もこの1年、食料を届ける働きをしてきました。人身売買に関する報告では、イスラエル第三世界として位置付けられています*9イスラエルでは売春が合法であり、広く普及しているため、この国における性産業は5億ドルもの年間収益を生み出しています([単純計算では]国民1人当たり60ドルにもなります!*10)。2012年の国際麻薬統制委員会[INCB]の年次報告では、イスラエルは「麻薬の製造、輸出入、利用が盛んな国々」の中に位置付けられています*11イスラエルは妊娠中絶を推進する国のひとつであり*12、1日当たり55人の赤ちゃんが殺されています──そして、私たちの政府はそれを助成しているのです。

私たちの国もまた、世界の他の国々と同じように、残念ながら救い主を必要としていることを分かっていない罪深い人間によって成っていることがわかると思います。結果として、私たちの国の不道徳な側面が浮き彫りになっています。(ただ、これははっきりさせておきたいと思います。私はイスラエルを愛しています。それに、私が政府を批判することができるのは、イスラエルが中東における唯一の真の民主主義国家であることの証拠です。私はこの国のどこにいても、イエスと顔を合わせることができます☺*13

イスラエルの国民として、私たちの希望は政府にも、イスラエル国防軍(IDF)に置かれるべきでもありません──その希望は、ただ私たちの救い主にだけあるのです。神が心から喜ばれるのは、なびくイスラエル国旗でも、IDFの新型戦車でも、また約束の地が産出するオリーブオイルでもありません──人がメシアに従うことを決断するとき、神は喜ばれるのです。私たち国民が本当に必要としているのは、イェシュアなのです!

ですから、親愛なるクリスチャンの皆さん。イエスに従うイスラエル在住のユダヤ人として、今日私がチャレンジをお願いしたいのは、地獄へ向かうユダヤ人を愛することよりも、イェシュアにあって私たちにねたみを起こさせるという聖書的な使命に生きることなのです。信じてください。私自身が生きた証拠です。16年前、私はねたみによってイェシュアを信じました。そのようなねたみは、今もなお、多くのユダヤ人の間に働いているのです。

イスラエルを祝福する最高の方法がメシアであるイェシュアにあると賛同してくださるなら、どうぞこの記事をシェアしてください!

*1:Seth D. Postel, Eitan Bar and Erez Soref, The Torah’s Goal?, Kindle ed. (One For Israel Ministry, 2015)

*2:元記事ではマタ22:39と表記されているが、おそらく23:39の誤りであろう。

*3:元記事に明記されていないが、この部分は使2:36からの引用であると考えられる。なお、この部分については新共同訳の訳文を引用した。新改訳ではイスラエルが主でありメシアであるイエスを十字架につけたという部分が強調されているが、新共同訳では(ほとんどの英語訳のように)イスラエルが十字架につけたイエスこそが主でありメシアであるという部分に強調が置かれているためである。

*4:旧約聖書と同義

*5:Lidar Gravé-Lazi and Lahav Harkov, “Unicef: Israel’s Child Poverty Rate Surpasses Mexico and Chili,” The Jerusalem Post, April 14, 2016, accessed April 1, 2017.

*6:Israel), OECD Data, accessed April 1, 2017.

*7:2016年時点で、Transparency Internationalによるイスラエル汚職進行度評価は100段階中64となっている。Israel, Transparency International, accessed April 1, 2017.

*8:たとえば、以下を参照。Michele Chabin, “The unlikely allies assisting Israel’s Jewish Holocaust survivors,” USA Today, Jan. 26, 2017, accessed April 1, 2017. 次の記事では、貧困に苦しむイスラエルに住むホロコースト生存者は3分の1にも及ぶと報告されている。Omri Efraim, “Third of Holocaust survivors in Israel live below the poverty line,” Ynetnews, April 5, 2016, accessed April 1, 2017.

*9:たとえば、米国国務省の以下の報告を見よ。U.S. Department of State, “2016 Trafficking in Persons Report Country Narrative: Israel,” accessed April 1, 2017.

*10:Prostitution Revenue By Country,” Havroscope, accessed April 1, 2017. イスラエルにおける売春問題については、以下も参照のこと。マティ・ショシャニ「イスラエルにおける売春禁止法」『Vehaskel 【ヴェハスケル】』ハーベスト・タイム・ミニストリーズ訳、15頁(2017年3月30日閲覧)

*11:International Narcotics Control Board, “Analysis of the world situation,” Annual Report 2012, Ch. III, pp. 89–96, accessed April 1, 2017.

*12:イスラエルにおける堕胎政策などについては、以下の記事を参照。Debra Kamin, “Israel’s abortion law now among world’s most liberal,” The Times of Israel, January 6, 2014, accessed April 1, 2017; Yonah Jeremy Bob, “Abortion in Israel: Why is There No Public Conflict?,” The Jerusalem Post, June 30, 2016, accessed April 1, 2017.

*13:イスラエルでは(法律上)信教の自由が保証されていることを述べているのだと思われる。