軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

聖書における「イスラエル」の意味(4)新約聖書での「イスラエル」の登場箇所

 前回(2)〜(3)までは、旧約聖書における「イスラエル」の意味を論じてきました。

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 そこで分かった旧約での「イスラエル」の用法は、以下の4つにまとめることができます。

  1. ヤコブの別称
  2. ヤコブの子孫である民族
  3. その民族から成る国家/王国
  4. (例外的に)メシア的人物

そして、旧約全体のナラティヴにおける「イスラエル」という存在は、2. および3. の意味をもって定義される*1ということを確認しました。
 今回からは、数回連続で「新約聖書における『イスラエル』の意味」を論じていきます。初回では、まずは新約聖書で「イスラエル」という用語が使われている箇所を確認していきましょう。

*1:Fruchtenbaumは、「イスラエル」という用語を「イスラエルという用語は神学的にはアブラハム、イサク、ヤコブのすべての子孫を示す」と定義しています(Arnold G. Fruchtenbaum, Israelology: The Missing Link in Systematic Theology, Revised ed. (Tustin, CA: Ariel Ministries, 1993) 2)。

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聖書における「イスラエル」の意味(3)

 聖書における「イスラエル」の意味を探っていこうとするシリーズの第3回目です。
 前回はモーセ五書〜バビロン捕囚以降に至るまでの「イスラエル」の意味を旧約聖書から調べていきました。その結果、この用語は最初使われたときはヤコブの別称でしたが(創32:28)、その後は彼の子孫であるイスラエルの12部族から成る民族全体、あるいはその民族から成る国家を指す用語としても使われていることがわかりました。

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 今回は「旧約聖書における『イスラエル』の意味」の続きとして、「イスラエルの地」や「イスラエルの神」といった表現に着目して後、旧約聖書の中では最も論争があると思われるイザヤ書49:3における「イスラエル」の意味について考察してみたいと思います。

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聖書における「イスラエル」の意味(2)

 前回の記事では、「イスラエル」の意味を確立することの重要性について述べた後、その意味がどのように考えられているのか、幾人かの神学者の考えをピックアップして紹介しました。

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 これ以降は数回連続で、旧新約聖書から「イスラエル」の意味についてワードスタディを行っていきたいと思います。今回は、旧約聖書編のその1です。モーセ五書〜バビロン捕囚以降に至るまでの「イスラエル」の意味を見ていきます。

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聖書における「イスラエル」の意味(1)

 これまで、「旧約聖書の『意味』は新約聖書の啓示によって変更されたのか?」という問題について扱ってきました。この問いが関わってくる最大のテーマは、「イスラエル」という用語の意味です。「イスラエル」についての考え方(イスラエル)は、前回まで見たような旧新約聖書の関わり方をどのように考えるかによって規定されていきます。
 今回はイスラエル論に関する神学的主張の比較を取り上げますが、次回以降は聖書本文から「イスラエル」という用語についてワードスタディを続けていきます。
 今回はいつもより少々長い記事となってしまいましたが(15,000字超え!f^_^;)、ここで取り上げた神学者たちの主張は、分割せずにひとまとめにしてしまった方がよいと判断しました。その内容は最後の「今回の結論」でまとめていますので、そちらを御覧になってから各主張を読んでいただけると分かりやすいかと思います。

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旧約聖書の「意味」は新約聖書の啓示によって変更されたのか?(補足その2)

 前回、「旧約聖書の『意味』は新約聖書の啓示によって変更されたのか?」の前後編記事の補足として、「新約聖書による旧約聖書の使用法」についての諸見解を概観しました。   balien.hatenablog.com

 今回は、各見解の問題点について述べた後、改めて「後編」で紹介した筆者個人の考える「解釈学的枠組み」に触れたいと思います。

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