軌跡と覚書

神学と文学を追いかけて

アーノルド・フルクテンバウム博士の「メシアの生涯」解説書が(ようやく)出版されました

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米国Ariel Ministriesのアーノルド・G・フルクテンバウム博士が,何年も前から「出すよ出すよ」と告知してた3巻ものの『メシアの生涯』解説書。 その第1巻がやっとの事で出版されたみたいです(早速Ariel MinistriesのHPから注文しました!)。

Ariel Ministries Catalog Yeshua

彼は色々な本で,イエス・キリストの生涯について第二神殿時代の背景知識をふまえて解説しています。
一番最近だと,『Come and See』シリーズの第3巻 Messiah Yeshua, Divine Redeemer: Christology from a Messianic Jewish Perspective (Ariel Ministries, 2015) とか。

Ariel Ministries Catalog Messiah Yeshua, Divine Redeemer

でも,あんまり参考文献の紹介は充実していなかったんですね。
だからぼくのような面倒くさい理系野郎は,彼の解説を読んでも「いやまぁそうなのかもしれないけど,根拠はどこなんだい!」なんて気になって仕方がなくて,ことあるごとに自分で調べなきゃならなかったわけです(それがすごく勉強にはなりましたけど)。
今回はちゃんとヘブライ語アラム語ギリシャ語の資料,また古代ラビ文献や他の学者の著書・論文といった参照文献が充実しているようなので,福音書研究も含め新約聖書学に興味のある人にとっては「買い」だと思います。

ここ数年,スコット・マクナイトやN・T・ライトの邦訳本が立て続けに出版されていて,ユダヤの歴史・文化・伝統をふまえたイエス研究(史的イエスの第三の探求,と表現する人もいますね)が,学者ではない一般的なキリスト者の間でも注目を集めています。

Amazon.co.jp: 福音の再発見―なぜ“救われた”人たちが教会を去ってしまうのか: スコット・マクナイト, 中村 佐知: 本

クリスチャンであるとは | N・T・ライト, 上沼 昌雄 | 本 | Amazon.co.jp

新約聖書と神の民 上巻: キリスト教の起源と神の問題 1 | N.T. ライト, Nicholas Thomas Wright, 山口 希生 | 本 | Amazon.co.jp

ライトの研究などはかなり史学の視点から福音主義的イエス像に辿り着いた,といった面もあり,彼は彼なりのパラダイムの中で「ユダヤの歴史・文化・伝統をふまえたイエス研究」を提示しているわけです。
(ライトの『新約聖書と神の民』は言うまでもなく名著です。批判的実在論や世界観を軸にした基本的な方法論はすごく勉強になりました。でもたま〜に結論ありきの強引な方法論が紛れ込んでるような感じがするんですよね。だから神学的な結論自体も同意できない部分が結構あったりする。)

それに対し,今回のフルクテンバウムのYeshua: The Life of Messiah from a Messianic Jewish Perspectiveはより保守福音主義者寄り,さらに自身が幼い頃よりラビ教育を受けた経験のあるユダヤキリスト者であるという視点を含んだパラダイムから「ユダヤの歴史・文化・伝統をふまえたイエス研究」を提示しているものと思われます。

ちなみに,Ariel Ministriesの商品紹介ページからも読めますが,2巻物のルカ注解書などのルカ–使徒行伝研究で知られる新約聖書学者のダレル・L・ボックが推薦文を寄せているみたいですね!
曰く,「本書はユダヤ的文脈におけるイエス研究の上で非常に重要な一冊である。時間をかけて精読する価値のあるものであり,これから長きにわたって役立つ資料となることだろう」だそうです。

ユダヤ的文脈をふまえたイエス研究」は日本だとこれからしばらくはライトの路線一辺倒な感じでしょうけど,いつか本書も紹介されて(いや,翻訳を待つことなく広く読まれて!),より豊富な「ユダヤ的文脈をふまえたイエス研究」が広まっていき,議論が展開されていくことを期待しています。

(そうそう、フルクテンバウム博士の英語は非常に聞き取り辛いですが、文章はとても読みやすいです。笑)